糖尿病の方の爪切りは疾病予防としてすごく重要です。しかも、健康な方と比べて注意点もあります。糖尿病の病態を理解する疾病を持つ方に接する時は、その疾病の病態について理解しておくことは重要です。もちろん、専門家ほどの詳しい医療知識を持つ必要はありませんが、その方のその症状がなぜ出現しているのか?を知っておくと看護や介護のケアのときにとても役立ちます。

糖尿病とは?

糖尿病は、ご存知の通り、血糖値が高い状態が続く病気です。肥満、食べすぎや飲みすぎ、運動不足等によりインスリンの分泌や働きに障害が起こると糖尿病を発症します。 高血糖状態が続くと、全身の血管が痛み、さまざまな合併症を引き起こします。これは、血液中の糖分が細かく分解できず、大きなままで血管の中を流れるため、血管の内部の壁を傷つけるため起こってくる症状です。

糖尿病の3大合併症

糖尿病の3大合併症は、

  1. 神経障害(末梢)
  2. 腎症
  3. 網膜症

といわれています。

上述の糖尿病の病態を理解して頂くとわかりやすいですが、この3つの部位はすべて、人体の中でも特に細かい毛細血管が密集している場所です。糖分が血管の内壁を傷つける病気が糖尿病です。症状が進行したり、長く高血糖の状態が続くと、これらの細かい血管の内壁がダメージを受けてしまう、ということです。これらのことを理解した上で、糖尿病患者の爪切りを行う上での注意点を考えてみます。

糖尿病患者の爪切りの重要性

糖尿病の人は、適切な爪切りをすることが重要です。なぜなら、糖尿病がある方は、皮膚が傷付きやすく、治りにくい状態になっているからです。

糖尿病では、乾燥することで皮膚のバリア機能が低下するため、少しの刺激でも皮膚が傷つきやすくなります。また、血管障害の影響で傷を治すために必要な栄養や酸素が十分に供給されにくく、傷が治りにくくなります。そして、傷から侵入してきた病原体を殺す役割をもつ好中球の働きが低下しているため、感染症を起こしやすいことも糖尿病の特長です。感染症を起こした傷は重症化しやすく、潰瘍(皮膚の組織が欠損して穴が開いた状態)や壊疽(皮膚の組織が死んで腐った状態)へと移行する場合があります。

壊疽の範囲が大きく、菌が全身に回って敗血症になる可能性が高い場合には、命にかかわる恐れがあるため、その部位の切断が検討されます。糖尿病で足を切断する人では、その始まりはほんの小さな傷であることも多いのです。このように、糖尿病の人にとって皮膚の小さな傷は、後の大きな問題に繋がる可能性があります。

例えば、手の爪が伸びていると、皮膚を掻いたときに傷付きやすくなります。足では、爪切りの際に皮膚も切ってしまったり、巻き爪のために皮膚が傷付くなどのトラブルが考えられます。そのため、糖尿病の人は適切に爪切りをすることが求められます。

糖尿病がある方の爪切りの方法

糖尿病がある方の爪切りの方法についてお伝えします。

①準備

まず、爪の状態にあった道具を準備します。爪切りの他、やすり、厚い爪であればニッパー、柔らかく細かい部分を切るなら子供用の爪切りはさみなどがよいでしょう。お風呂上りの爪は柔らかくなっているので、切りやすくなります。また、もし肉を切ってしまった場合の感染症を予防するため、できれば手洗いやアルコール消毒をしたあとに爪切りを行いましょう。

②まっすぐになるように爪を切る

爪切りする際には、爪の真ん中からカーブをつけずに真直ぐ切ります。カーブを付けて切ると巻き爪になりやすいといわれています。コツは、何度かに分けて少しずつ切ることです。

※強い巻爪や厚くて切りにくい爪は無理に切らず、医療機関などに依頼しましょう。

③複数回に分けて切る

深爪にならないように、爪の先が皮膚から出る部分で複数回に分けて切っていきます。患者の感覚は鈍麻している可能性があるので感覚に頼らず、目視で切る部分を確認しながら行います。爪の角は深く切り落とさず、やすりで滑らかにします。最後に爪を点検し、尖っている部分があればやすりをかけます。

糖尿病のある方の爪切りをするときの注意点

上述のように、糖尿病の方の爪切りでは、

  •  傷が治りにくい
  •  感染症を起こしやすい
  •  小さな傷から壊疽を起こしやすい
  •  感覚鈍麻がある場合があるので、傷が出来ても気づきにくい
  •  網膜症などにより視力が低下している可能性があるので、自分で爪を切るときに傷を作りやすい

という問題があります。

爪切りの際は、これらの点に注意して行います。また、爪切り終了後の目視での確認も重要です。患者に痛みの訴えがなくても、出血の有無を必ず丁寧に確認し、清潔にした上で爪切りを終了しましょう。

まとめ

糖尿病がある方の爪切りは感染症を予防したり、皮膚の傷を予防するために重要です。糖尿病は、傷が治りにくいことや感染症を起こしやすいことを理解した上で行いましょう。実際に爪切りをする際には、カーブを付けて切ると巻き爪になりやすいため、爪の真ん中からカーブをつけずに真直ぐ切ります。また、感覚鈍麻や網膜症による視力低下がある可能性もあるので、対象者の自覚症状だけではなく、目視をしながら深爪や肉を切ってしまわないように注意して行いましょう。