昨今の生活環境の変化により、糖尿病患者の増大が問題になっています。厚生省「糖尿病実態調査」によれば、糖尿病が強く疑われる人は690万人、可能性を否定できない人を含めると1,370万人以上と推計されています。
糖尿病患者にとって、足の管理、つまりフットケアは進行を予防するためにすごく重要です。今回は、糖尿病の方のフットケアを行う際に注意すべきポイントをご紹介します。
また、筆者が理学療法士として糖尿病の方にリハビリをする際に気をつけていることもご紹介したいと思います。
糖尿病とは?
糖尿病には1型と2型があります。
1型糖尿病
インスリンを作る膵臓の細胞が何らかの原因でこわされることで、インスリンが作られなくなり、糖尿病になります。子どもや若年者に多くみられます。
2型糖尿病
インスリンの分泌が少なくなったり、働きが悪くなるために起こります。おもに中高年以降にみられますが、若年者の発症も増加しています。日本の糖尿病患者さんの約90%が2型糖尿病とされています。1)
1) 日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき 2020 改訂第58版, p.18, 南江堂, 2020
日本人は遺伝的にインスリン分泌が弱い人が多いといわれています。遺伝的な体質に過食(特に高脂肪食)、運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣や加齢といった要因が加わり、発症するとされています。このため、2型糖尿病は「生活習慣病」ともいわれています。
また、肥満がなくても、内臓脂肪が増える「メタボリックシンドローム(メタボ)」と呼ばれる状態になると発症しやすくなります。
糖尿病のフットケアに関わる症状
糖尿病の足病変に関わる症状には以下のものがあります。
易感染状態
糖尿病になると、生体の防御機能が低下することにより直接的・間接的に引き起こされ、感染症にかかりやすくなります。
多発神経障害
知覚神経障害として感覚が鈍くなるため、傷や熱傷ができていても気づきにくくなります。また、運動神経障害として、筋萎縮に伴う足指の背屈や足変形により足底局所へ圧負荷がかかり、胼胝(たこ)ができ、潰瘍へとつながる可能性が高くなります。
自律神経障害
自律神経で調節される発汗が減少することにより、皮膚の乾燥、亀裂が生じやすくなります。また、血管拡張反応の低下により酸素や栄養物質の供給が低下し、傷の治りが遅くなります。
糖尿病の足病変
糖尿病の患者に生じる足のトラブルの総称を「糖尿病足病変」といいます。病変には、足に生じる水虫や細菌感染による病変、たこやうおのめ、足の潰瘍や変形などがあります。
これらを避けるためには、血糖を適切な状態に保つことはもちろん、毎日足の状態をよく観察し異常をすぐに見つけることが大切です。
糖尿病患者にとって、もっとも怖い足の問題は「足を失うこと」です。糖尿病で足を失うことは珍しい話ではなく、糖尿病の合併症である神経障害や血管障害などは、足の壊疽(組織が腐ってしまうこと)を引き起こします。壊疽は大変治りにくい病気で、足を切断することもあります。
糖尿病患者の足に出現する症状は主に以下のものがあります。
- 足の先がしびれる
- 足の先に痛みがある
- 足の先がジンジン(ピリピリ)する
- 足の感覚に異常がある(痛みを感じにくい、感覚が鈍いなど)
- 足がつりやすい
- うおのめ、たこ、まめ、靴ずれがよくできる
- 小さな傷でも治らない
- 足に感染症がある(水虫など)
- 皮膚が赤くなったり、腫れたりしている部分がある
- 皮膚が乾燥したり、ひび割れしている部分がある
- 爪が変形したり、変色したりしている
フットケアを判断するための4つの視点
糖尿病患者のフットケアの必要性を判断するために、
- 足の状態
- 全身状態
- 生活状況
- セルフケア状況
の4点を観察することが重要です。以下、足の状態以外の観察すべきポイントについてご紹介します。
①生活状況
- リスクとなる靴を履く仕事や趣味
- 足の圧迫やずれを起こす生活状況
- 足の血流障害を起こしやすい生活状況
- 足の清潔が保ちづらい生活状況
- 外傷、熱傷など危険が及びやすい生活状況
②全身状態
- 皮膚損傷の原因となる身体状況
- 姿勢・歩き方の変化による足への加重増加
- 身体防御機能低下に関わる身体状況
- 高血糖・低栄養・末梢循環障害など
- セルフケアに影響する身体状況
- 運動機能障害・視力障害・認知症など
③セルフケア状況
- 必要性を知らない
- 実行しづらい状況がある
- ケアの方法を知らない
足病変リスクが高い糖尿病患者は?
以下の項目に該当する方は足病変リスクが高いとされています。
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足病変や足指切断歴がある
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透析を受けている
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末梢動脈性疾患(PAD)がある
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ヘビースモーカー
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糖尿病神経障害が高度
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足指や爪の変形、胼胝がある
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足病変自体を知らない
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血糖コントロールが不十分
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視力障害が高度で、足を見たり爪を切ったりできない
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外傷を受ける機会が多い
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独り暮らしの高齢患者や足の衛生保持が不十分な方
糖尿病患者のフットケア
糖尿病患者のフットケアを行う際の注意点をご紹介します。
①爪は切り過ぎないようにしましょう
神経障害が進行すると違和感や痛みを感じません。伸びた爪はケガのもとになりますので、こまめに手入れをしてください。なお、硬くて切りにくい爪は無理に自分で切らずに医師や看護師に処置してもらうことも大切です。
②足を清潔に保ちましょう
感染を防ぐためには、足を清潔に保つことが重要です。足は石けんをよく泡立てて、柔らかいタオルやスポンジで優しく洗ってください。指の間も忘れずに洗いましょう。
③自分の足に合った靴を履きましょう
靴が足に合っていないと、靴ずれを起こしたり、血管を圧迫したりします。そのため、足の糖尿病対策として靴選びは重要なポイントです。靴を選ぶ際は以下のポイントに注意して選びましょう。
靴選びのポイント
- つま先に1センチ程度の余裕があり、足の形に合っている
- 革や内張りが柔らかく、靴の内部に硬い縫い目がない
- クッション性がよく、靴底が安定している
- ハイヒールなど、一カ所に過剰に体重がかかるものは避ける
- 一日の中で最も足が大きくなる夕方を基準にサイズを選ぶ
- 通気性のよい綿かウールのものを選ぶ
靴を履く時のポイント
- 新しい靴は最初から長時間履かずに少しずつ慣らしていく
- 毎日履きかえて清潔に保つ
- 靴の中に異物がないか、よく確認してから履く
- 運動や散歩をする時は足首が固定されるよう、紐やマジックテープが付いた運動靴を履く
④必ず靴下を履きましょう
足の怪我を予防するため、靴下を必ず履くようにしましょう。靴下を履くことでケガだけでなく、感染症や水虫の予防にもなります。
⑤やけどに注意しましょう
神経の障害により足が冷たく感じることがあります。その状態のときには、熱さに対しても鈍感になっています。湯たんぽやこたつ、電気カーペットなどでは低温やけどに十分注意しましょう。
糖尿病のリハビリ
リハビリをする上で、既往に糖尿病がある方は大変多いです。それくらい、臨床上、糖尿病は本当に頻繁に遭遇する疾患です。逆にいうと、糖尿病によって全身の血管にダメージが徐々に蓄積されるので、既往に糖尿病がある方はリハビリや介護を必要とされる状態になる方が多いのではないでしょうか。
しかし、糖尿病と一言で言っても、程度によって大きく差があります。
重度の方は運動やリハビリをすると血糖値が大きく変動してしまうため、意識を失う可能性もあり、大変危険です。まずは血糖値のコントロールを優先します。主治医と相談しながら服薬の調整、必要であればインシュリンなども検討し、生活習慣の改善を行っていきます。血糖値が安定するようになったら、リハビリを積極的に行っていく段階になります。
”運動習慣”は最も価値のある財産
糖尿病の改善には生活習慣の改善が効果的です。食事内容を変えたり、運動できる時間をまずは確保し、きちんと定期的に運動する習慣を作ることが重要です。「気が向いたら運動する」という考え方では、糖尿病の改善には繋がりません。毎日決まった時間に運動する、と自分で決め、周囲にも宣言し、決めてしまうことが重要です。
運動は、まずは、「散歩」からで十分です。スモールステップで、小さなことからコツコツと実行していきましょう。誰にとっても、朝日を浴びながら散歩をするのは気持ちの良いものです。好きな音楽を聞いたり、お気に入りの運動靴を購入して、自分にとって心地よい状態を工夫して作りましょう。
「運動は辛いもの」となんとなく感じている人が多いですが、それは今まで運動をしてこなかったために持っている、「誤った思い込み」です。実際、運動習慣を持ち、毎日運動しているような人は「運動は気持ちの良いもの。ストレス発散になる。」と思っている人がほとんどです。
人間も動物なので、”動くこと”は本能的に重要で、気持ち良いはずなんですね。もちろん、過度な運動は辛いですが、健康的な範囲での運動は確実に気持ちが良いはずです。まずは、「運動は気持ち良いもの」という感覚を持てるように環境を整えることが重要だと思います。
糖尿病のリハビリとしては、血糖値に注意しながら、食後すぐや空腹時の運動は避け、できるだけ有酸素運動(歩く、軽いジョギング、サイクリングなど)を行います。筋力トレーニングも並行して行うと理想的です。筋力トレーニングは、まずは大腿四頭筋(ふともも)を鍛えるスクワットだけでも十分です。スクワットは「筋トレの王様」と言われるくらい理想的な筋力トレメニューです。簡単ですぐに、どこでも行え、心身の健康に対する効果が高いです。
足が強くなると、より歩くのが楽しくなり、有酸素運動がしやすくなる、という好循環になります。
運動をすることでメンタル(精神面)にも良い効果があることが研究から明らかになっています。血液循環が亢進し、脳にもたっぷり酸素が送られます。さらに前向きになるホルモンも分泌されやすくなるので、「明日から食事のメニューをこうしてみよう」、「明日はもっと歩いてみよう」など、前向きな工夫が自然と思い付くようになります。
筆者はリハビリに携わって12年になりますが、個人における運動習慣の確立は、どんな莫大な財産を得るよりも、人生で最も価値のあるものだ、と断言できます。
心身が健康でなければ、何事も成し遂げることはできませんし、なにを得ても、なにをしても物足りなく感じるものです。ぜひ、運動習慣を確立するために様々な工夫をしてみてください。
まとめ
糖尿病がある方は、足病変リスクが高く、フットケアが重要な役割を持ちます。
糖尿病の種類には1型と2型があり、2型が約90%を占めるといわれています。糖尿病の方は 易感染状態、 多発神経障害、自律神経障害があるため、足病変が進行しやすく、最悪の場合壊疽から下肢切断に至る場合もあります。
糖尿病患者のフットケアを判断するためには足を観察するだけではなく、生活状況、全身状態、セルフケアについて 観察及び考慮する必要があります。
糖尿病患者のフットケアでは、
- 爪を切りすぎないようにする
- 足を清潔に保つ
- 自分の足に合った靴を履くこと、
- 靴下を履くこと
- 火傷に注意すること
などが重要です。