いつまでも歩ける状態を維持するために、ご存知の通り、足の健康を保つことは非常に重要です。「足の健康」というと足の筋肉の維持をイメージする人が多いと思います。しかし、足先のケア(フットケア)を行うことも、同じくらい重要です。今回は、リハビリの視点から、予防的にフットケアを行うことの重要性について解説します。
足の状態で生活の質が変わる
「高齢者にとって生活の質・生命の質を低下させ、生きがいを失うきっかけは自分自身の足で歩けなくなること」(西田2008:41-51)といわれています。歩行能力の低下は、転倒をまねき、骨折や要介護状態へ陥る危険があります。
高齢者の転倒は、骨折・寝たきり・閉じこもりに直結し、心身機能の低下や活動・社会参加を阻害する大きな要因になります。歩けなくなることは、ADLやQOLの低下、生きる意欲に影響を及ぼします。
また、「足に胼胝(タコ)や白癬(はくせん)のある在宅後期高齢者は、過去の転倒経験率が高い」(姫野他2004:75–84)と、足部の不衛生さと転倒についての関係性も報告されています。
つまり、足部の皮膚や足爪が不健康な状態となると、歩行を含めた運動機能に悪影響を及ぼし、バランスの取れた歩行が困難になる恐れがあります。高齢者の安定した歩行には、足爪や足趾の変形、皮膚疾患等により足部に痛みや感覚の異常がない状態が求められます。
足裏全体で体重を支えることができ、左右の足にスムーズにバランスを移動させることが可能となるためには、日頃より足部を見ることや意識することが大切です。
フットケアとリハビリテーション
「65歳以上の高齢者の約70%が爪や足部 変形、皮膚のトラブルなどの足病変を抱えて いる」(菅野 他2019:141)と報告されています。
足の指の変形(外反母趾など)や痛み、浮き指や皮膚が角化した胼胝(タコ)があると、全身の重心バランスを上手くとることができなくなります。
具体的には、足の指や足の指の付け根にある胼胝(タコ)に痛みがあったり、浮指で地面から指が浮いていると、足裏全体に体重をかけることができません。必然的に踵のみでバランスを取ることになり、咄嗟のときに転倒のリスクが高いことが予測されます。
足底の皮膚が角化していると、硬くなるため柔軟性が低下し、柔軟な足部の動きが阻害されるだけではなく、感覚が鈍くなり、転倒につながります。自立して歩行ができ、一見元気に見える高齢者の方でも、足の状態を見てみるとこのような状態になっていることが非常に多いです。しかも、予防的フットケアや足先の状態がどのようにその人のQOLに影響するのかはあまり認知されていないため、家族や本人も自覚がないことがほとんどです。
つまずきを減らしたり、つまずいたとしても立ち直り、転倒しない身体を作るためには、角質をケアしたり、足部の柔軟性を維持したり、予防的にフットケアを行う必要があります。
予防的フットケアと靴
足爪の肥厚や足趾の変形、むくみ等の足のトラブルの自覚があるために、靴を足に密着させるような着用方法をしていない方が多く存在します。
予防的フットケアの領域の中で、靴についての知識を活かすことは重要です。なぜなら「適切な靴の着用が転倒リスクを減少させる」(長谷川2016:17-23)、「足にフィッ トする靴を履くことにより、変形した足の増悪を予防し、歩行を安定させることができる」(塩之谷2008)と言われているからです。
踵を踏んで靴を履いていたり、靴ひもを解かずに着脱する状況がよく見られます。靴の踵を踏みつければ靴の脱ぎ履きは容易にできますが、容易に脱げる靴は、高齢者の歩行には安全とは言い難く、むしろ転倒のリスクが高くなります。
靴は身近な道具ですが、着用方法を誤ると、歩きにくく、むしろ危険を招きます。足部の手入れだけをフットケアと位置付けるのではなく、靴を着用した足部も裸足の足部も観察することが、生活により根ざしたフットケアだと考えられます。
まとめ
足に胼胝(タコ)や白癬(はくせん)のある在宅後期高齢者は、過去の転倒経験率が高いことが知られており、転倒を予防し、末永く自分の足で歩くためには、予防的フットケアは大切です。
65歳以上の高齢者の約70%が爪や足部変形、皮膚のトラブルなどの足病変を抱えて いると報告されており、多くの方が何らかの問題を抱えていますが、フットケアが転倒予防にどのように役立つのか認知されていないため、指摘・改善される機会が提供されていないことがあります。
外反母趾などの足指の変形などで踵へしか重心を移動させることができない場合、咄嗟のときに足裏全部を使うことができないため、非常に転倒しやすくなります。高齢者によくみられる角化も、柔軟性の低下による足部の衝撃吸収機能不全、感覚の鈍さに繋がり、結果として転倒リスクが高まります。
足部の健康状態の維持に伴う転倒予防のためには、足部の清潔(保清)や皮膚の乾燥や角化への予防(保湿)、爪の手入れ、適正な靴の着用を推進するフットケアへの意識啓発が必要です。