自分の足で歩いてどこへでも行けていた方が、疾患により歩けなくなってしまい、生きる気力までも失ってしまったというような経験をされたことはないでしょうか。

足を守ることは「いつまでも歩ける」という状態を維持することであり、結果的にその人らしい生活を守ることにつながります。今回は、フットケアを行わないと起こるリスクについて説明します。

フットケアとは?

日本におけるFoot care(フットケア)は、大きく「医療」「予防」「美容」の分野において行われており、足部に対する様々な手技の総称です。フットケアは、

  • 足浴
  • ネイルケア(カット、甘皮ケア、爪甲削り、ファイリング)
  • ネイルクリーニング(爪溝そうじ)
  • 巻き爪矯正
  • 角質ケア(タコ・かかと・ウオノメ削り)

を行うだけではなく、トラブルの原因を追求し、再発予防のためのアドバイスを行います。

フットケアのメリット

体調の変化が足部に真っ先に現れることも多く、観察を通して異変を早期発見し、適切なケアや患者教育も行います。

具体的には、特に高齢者の場合、

  • 筋肉や脂肪組織の減少に伴う足のクッション性の低下
  • 神経細胞の減少に伴う知覚異常・鈍化
  • 活動低下に伴う老人性・廃用性浮腫
  • 動脈硬化に伴う血流異常
  • 高血糖に伴う神経障害や創傷治癒遅延
  • 長年の物理的刺激による皮膚の角質化に伴う硬化や乾燥
  • 筋肉の萎縮に伴う関節拘縮や重心の変化

などの異常を早期に発見し、適切なケアを行うことができます。

足には全身状態にもつながるたくさんのアセスメントのポイントが詰まっています。目の前の足のみをみるのではなく、足病変がみられた場合はなぜそれが起こったのか、今後起こらないようにするためにはどのようなケアや治療が必要になってくるのかなど、「足から全身をみる」ことがとても大切です。

フットケアの意義

動物である人間にとって、移動の要(かなめ)となる足は大変重要な役割を持ちます。しかし、足は加齢や慢性疾患によりさまざまなトラブルが生じます。疼痛による歩行困難や、病変の重篤化により、下肢切断に至るケースもあります。

フットケアは、単に足部の清浄を保つだけではなく、これらのトラブルを防ぎ、「健康な足」を守るためにとても重要です。足を清潔な状態に保ち、血流や感覚障害などの異常、魚の目や陥入爪といった創傷の徴候を早期に発見して予防・治療を行うことで、患者さんが少しでも長く自分の健康な足で歩いていく助けとなります。

足を守ることは健康寿命の延伸や介護予防にも直結し、患者さんや家族の負担を大きく軽減することもできます。昨今では、国としても健康寿命を伸ばすためにフットケアに力を入れていますし、病院やクリニックでも専門的な「フットケア外来」が増えてきており、フットケアへの関心はますます高まっています。

フットケアを行わないことで起こるリスク

では、フットケアを行わないことでどんなリスクがあるのでしょうか?

上述のように、フットケアを行うと足の機能を維持することにつながります。足の機能は歩行能力に大きく関係しています。

歩行機能が低下することで、ADL(日常生活動作)が低下することが研究からも示唆されています。研究によると、加齢によるADL制限は、

  • 歩行
  • 移乗
  • 階段
  • 入浴

などの足の機能の障害が先行し、その後に

  • 食事
  • 整容
  • トイレ
  • 排便・排尿自立度

が低下する可能性が示唆されています。

また、 歩行自立度はADL自立度の判別に妥当性の高い指標となることが示唆されており、足の機能を維持することで自立した生活を長く続けることができる可能性が高くなります。

また、歩行機能は、生命予後、健康寿命、社会資源利用とも大きな関連があります。足の健康を守り、歩行出来る状態をできるだけ長く維持することで、車などの二酸化炭素を排出する移動手段に頼らず、自分の足で移動できることは地球環境の保護、SDGSにも繋がっています。

高齢者を中心とした足の機能を末永く維持することは、高齢化が進む日本にとって今後、非常に重要な社会的課題でもあるといえます。

まとめ

フットケアを行うことで、足部の清潔が保たれるだけではなく、観察を通して病変にいち早く気づくことができ、結果的に足の機能を長期間維持することに繋がります。

足の機能維持は歩行能力に直結しており、フットケアを行わず足の機能が低下、結果的に歩行能力が低下することで、その人らしい生活を続けることが困難になります。

歩行能力はADL能力と強い相関があり、生命予後や健康寿命、社会資源の利用に影響するため、社会的にも大変重要なことです。

特に介護や医療の現場では、足の機能を維持するためにフットケアをぜひ積極的に取り入れていきたいものですね。

参考文献)高齢者の歩行自立度がADLに与える影響 熊谷 謙一, 山内 康太, 島添 裕史, 鈴木 裕也