人体の筋肉の70%以上が下肢(骨盤よりも下)にあるとされています。人間を含む動物にとって足の機能は生命活動を行う上でとても重要です。足部を怪我したことがある方なら分かると思いますが、足部がきちんと使えないと、本当に日常生活が不便になります。
この記事では、人間の全ての活動にとってすごく重要な、足の役割・構造と運動への影響についてご説明します。
足の構造
人は平均的には70kgの体重を載せ、2本の脚で立って歩行し、一生に地球の周囲を4~5回も歩き回るといわれています。よって、ヒトの足は、立つ、歩く、走ることを目的としており、その機能に応える構造となっています。足は、骨、靭帯、筋肉、腱、関節が複雑に組み合わさってできています。足の筋肉は26の骨(種子骨:シュシコツを入れると28)、55の関節、100を超える靭帯で支えられています。
これらの構造や働きが、私たちの自然な歩行を可能にしています。ヒトの足は全身の体重を支えるために足部がアーチ構造となっています。そして、下肢は細長いながらも強靭な筋肉を備えており、地面に接する足底は硬く厚みのある角層によって保護されています。
また、ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれており、重力に逆らって中枢に血液を戻すための構造も備えています。
足部には代表的な関節として、
- 距腿関節
- 足根間関節
- 足根中足関節
- 中足間関節
- 指節間関節
があります。
足関節は、骨と腓骨で形成されるソケットに距骨がはまり込む構造となっています。距骨の下後方に位置する踵骨(かかと)は、骨、腓骨と靭帯でつながっており、足関節は、骨、腓骨、距骨、踵骨の4つの骨で構成され、主に、つま先を上下に向ける動きに関わっています。
関節表面は軟骨と呼ばれる弾力のある組織で覆われ、足関節周囲は、多くの関節や強靱な靱帯に囲まれていて、衝撃や荷重に強い仕組みとなっています。足関節(足首)は多くの関節の組み合わせから構成されており、その運動は複雑です。底屈・背屈を基本に、内転と外転、回内と回外といった複数の動きが無意識のうちに組み合わさって、内返し・外返しという足の動きを形作ります。足部は柔軟で複雑な動きが可能なため、ヒトはどんな場所でもしっかりと立つことができています。
足部の役割
足部は身体を移動させるだけではなく、地面との衝撃を吸収したり、効率よく人体を移動させるために適した驚くべき機能を有しています。
足部が形成するアーチ(土踏まず)
足部で重要なのは、なんといっても「アーチ(土踏まず)」の役割です。足部は上方に隆起した軽い彎曲を示し、外観からは土踏まずが見て取れます。これを足のアーチと言い、力学的に荷重を分散するために人体の歩行などにおいて大変重要な役割を担います。
ヒトのアーチは出生時には低く、未完成で、ほとんど確認できません。成長と共に筋活動量が増え、体重も増加するため、抗重力作用として高さを増していき、次第に完成します。アーチの形成によって足底に掛かる体重は分散され、地面に伝達されるようになります。安静立位では体重の50%ずつ等しく両足の距骨(足首の骨)にかかります。
距骨はこれを踵骨(踵の骨)に25%、母指球(足の親指)と小指球(足の小指)に25%の比率で分配し、圧を分散させ、過剰なストレスが足部にかかり過ぎなように調節しています。この足のアーチがクッションのような弾力性を有するために、足底腱膜という強靭な縦走線維束が足裏の踵骨から足趾に向かい扇状に付着しています。
ウィンドラス・トラス機構
この足底腱膜の重要な機能として、“ウィンドラス・トラス機構というものがあります。足部が地面に着地した時、衝撃により、足部のアーチが崩れます。このときに足底腱膜の弾性によって衝撃を吸収します。これをトラス機構といいます。
一方、ウィンドラスとは船の「いかり」を巻き上げる機械のことですが、足においては指を背屈させると足底腱膜が巻き上げられ、アーチが挙上するように働きます。この機能は実際には踏み返し動作の際に役立っており、踏み返し動作の際に足の指が背屈することにより足底腱膜が巻き上げられ、足のアーチが挙上します。すると挙上したアーチは元に戻ろうとする力(復元力)を生み出し、これが前に進むためのバネの役割(推進力)となり、歩行時の踏み返し動作を容易にしています。
足部の運動への影響
外反母趾をはじめとして、扁平足などの足の障害はすべてこのアーチ構造の破綻により生じていると言っても過言ではありません。アーチの破綻した足部においては、クッションやバネの役割が失われているため、疲れ易く、歩きにくいといった症状を伴うようになります。また、足底にたこが出来ている方の多くもこのアーチ構造の破綻が原因となっています。このように、足のアーチ構造は歩くことにおいて大変重要な機能を持っています。
足部に異常があると、歩きにくかったり疲れやすくなるだけではなく、腰痛や様々なスポーツ障害を発症しやすくなります。ヒトが立位で姿勢を制御する際には「足関節戦略(アンクルストラテジー)」が積極的に活用されます。これは、姿勢が崩れたときに足首や足趾を微妙に調節して身体全体の姿勢を制御するメカニズムです。
しかし、足部に異常があるとこのメカニズムが働かず、足部の代わりに膝や腰で姿勢を制御しようとするため、過剰な負担が掛かってしまいます。特に、同じ激しい動作を繰り返すようなスポーツを行っている場合は、膝や腰を故障する可能性が高くなります。
高齢者の場合でも、同じようにバランスを崩したときに足首や足趾をうまく動かして(調整して)転倒しないように姿勢を制御しています。足部のアーチが崩れていたり、足趾が上手く動かなかったり、足趾の地面を掴む力が弱いと転倒しやすくなることが知られています。高齢者にとって、転倒・転落は骨折や頭部外傷等の大けがにつながりやすく、それが原因で介護が必要な状態になることもあります。
たとえ、骨折の症状が軽くても若いときに比べると回復に時間がかかります。さらに、転倒による不安や恐怖で何事にも意欲がわかず、気力がなくなり、活動性が低下し、活動性の低下が転倒リスクの増加を招くという悪循環につながっていきます。
まとめ
「令和元年国民生活基礎調査(厚生労働省)」によれば、高齢者の介護が必要となった主な原因は、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱と続き、「骨折・転倒」が12.5%を占め、4番目の多さです。
また、「令和元年人口動態統計(厚生労働省)」によれば、高齢者の転倒・転落・墜落による死亡者数は8,774人で、交通事故による死亡者数の3倍以上となります。高齢者の転倒事故を防ぐことが、健康な生活を末永く続けることに繋がります。
足部のアーチ機能を維持するためには、
- 歩行量を維持すること
- 足趾の屈伸筋群を鍛える運動を行うこと
が重要です。日常生活の中でも、できるだけ乗り物に乗るよりも歩くことを選択し、エレベーターやエスカレーターの代わりに階段を使うようにしましょう。
参考)・「令和元年国民生活基礎調査(厚生労働省)」・「令和元年人口動態統計(厚生労働省)」